智辯和歌山投手陣の覚醒
沢山の要因が絡み合い実現したものであるが、少し私の視点で語らせて貰いたいと思う。
思い起こせば昨秋までは、選抜当確である近畿大会ベスト4までは、何とか打線の破壊力で到達することができたのだが、和歌山予選から含めて投手陣は不安定な状況が続いていた。
近年の高校野球を分析すると、やはり全国制覇を達成しているチームには圧倒的なエースと、それを支えるエース級の実力を持つ2本目の矢、3本目の矢の存在が不可欠であることは明確であった。
どれだけ強力な打線を作り上げたとしても、毎年全国で数人の攻略することが不可能に近い投手が、夏の大会に向けて成長を遂げてくる。
それが智辯和歌山が2000年以降、全国制覇から遠ざかっている最大の理由であった。
2018年の圧倒的な破壊力を備えた文元世代においても、エース平田が最終学年で伸び悩み、小堀・池田も実力不足の状態の投手陣であった。
選抜準優勝という成果をあげるものの、大量失点の中で打線が奮起し、何とか決勝まで進んだのだが、大阪桐蔭高校の圧倒的な投手力の前に屈した。
100回選手権大会においても、1回戦の近江高校打線にエース平田が打ち込まれ、期待の智辯和歌山打線も近江投手陣のハイレベルな継投に抑え込まれ7対3で敗退。
そして、この100回大会も柿木、根尾、横川の盤石な投手陣を要する大阪桐蔭高校が春夏連覇を果たすという結果に終わった。
分かりきったことではあったが、改めて全国制覇を果たすには圧倒的な投手力が必要であり、智辯和歌山の根本的な投手力の弱さを痛感させられたのであった。
黒川世代が始まるも根本的な改善がない中で、投手陣が整備されるわけもなく、打線の力で秋季近畿大会ベスト4まで何とか辿り着いたものの、投手陣の課題は山積みであった。
シーズン終了後、現状を打破するため監督から投手陣のトレーニングをみてほしいと指令を受け11月から投手陣のトレーニング改革と意識改革を始めていった。
トレーニング改革におけるキーワードは「連動」と「出力」
改革前はランニング中心のメニューや、自重での体幹や下半身強化だったため、根本的な「出力」するためのエンジンが小さかった。
爆発的な「出力」を実現するために、ウエイトトレーニングとプライオメトリクストレーニングをバランス良く組み合わせ、片足ずつ鍛え上げていった。
それらをランニングや投球動作関連の全身連動性が必要なトレーニングを用いながら、部位ごとに鍛えた爆発力に「連動」を加えていった。
「出力」と「連動」の獲得を目指す中で必要なのは「脱力」である。
重量を利用しながら少ない力での「出力」
自身の力の流れ「連動」を感じながら、「出力」のタイミングを全身の神経系が総合的・複合的に学習することが、潜在能力を爆発的に開放する為には非常に重要なのだ。
これにより、プロ野球選手がよく口にする0から100への爆発的な「出力」を体全身で理解し、少ない力感で高い「出力」を出せるコツを掴むことができる。
そして、最大「出力」を高めていく為に強化トレーニングと、体の各関節がスムーズ「連動」し、末端まで力を伝えいくための関節動作の技術、また怪我をしないために「出力」に耐え切れるように関節周辺の強化も、パフォーマンス向上に合わせてバランス良く行い最短距離での覚醒を実現させるため逆算の計画を立てて日々無駄のないように進めていった。
とはいえ、実際にそれを行うのは当事者である選手たちである。シーズン終了後の11月段階の投手陣の最も厄介な課題は自尊心の欠落であった。
私の1番の仕事はこの失われた自尊心の回復だったのかもしれない。
私は自尊心=自信と解釈している。
それを育むための最も効果的な方法は、努力が成果に結び付く経験をする事であると考えている。
11月から徹底したことは、「どんな好成果も見逃さず賞賛し、課題が出ても前向きに捉えさせる」ということだ。
そして、そもそも私がトレーニングコーチとして組んだメニューを懸命に取り組むことにより確実に成果を上げられ、またこの選手たちなら必ず最大の成果を上げられるという、「相互尊敬」「相互信頼」の関係性をいかに築けるかが最も重要であった。
投手陣にはトレーニングを計画・実践するなかで、最終的な自立に向けて、知識や理論も理解させながら取り組むように意識し、それがマウンドでの自信に満ち溢れた頼もしい背中に繋がっていると感じる。
私は3月の選抜大会で、部長を退任し現場から離れることも決まっていたが故に、この投手陣の育成が自分の最後の大仕事であり、智辯和歌山への恩返しであると決め、11月から3月までの約5ヶ月役割をまっとうした。
冬期トレーニング中も投手陣によく言っていたのだが、冬の成果が出るのは5月、6月である。
気候的な関係と、トレーニングで鍛えたことがやっと完全に体に馴染んでくるからである。
選抜の段階でもある程度成果は見られており、一体夏までにどこまでの覚醒が見られるのだろうと楽しみにしていたのだが、まさかここまでやるとは想定を遥かに超える結果となり嬉しさを通り越し、教え子、後輩でありながら尊敬しかない。
それも全て池田陽佑、山本雄太の3年生がしっかり投手陣を引っ張る中で、個々が自立して逆境に屈することなく、努力を積み重ねた結果である。
池田陽佑日本代表選出おめでとう!
心から応援してます!
下級生のピッチャーも陽佑が最後まで「繋」「伝」えてくれた「投げっぷり」を継承し、選抜の壮行会で池田泰騎が公言した「投手王国智辯和歌山」を築きあげて下さい。
本当に感動をありがとう!
そして、これからも応援して下さる方々に勇気と感動を与えられような智辯和歌山であり続けられるように心から祈っています!